棚からまるがお

ぼたもちよりは役に立ちます in ブリュッセル

言葉のさらに向こう側の何か

ここのところブリュッセルは氷点下の気温です。でも乾燥しているからか、雪はほぼ降りません。湿気があるほうが暖かく感じるので、どんより曇り空で少し小雨がぱらつくかなくらいの日が一番過ごしやすい気温というなんとも複雑な気候です。太陽が昇ってくると、「お、今日は寒いな」と身構える、で、やいやい言っているとぱらっと雪が降る、みたいな。

 

さて、先日語学学校のことを書きましたが、そこで感じたことをひとつ書き残しておこうと思います。

フランス語でフランス語を習っているので、授業中はずっとフランス語です。フランス語でなんと言うかわからないときも、フランス語でなんと言えばよいのかをフランス語でたずねます。英語話したら、先生にこらこらーって突っ込まれます。日本語なんて論外。休憩中先生がいなくなったらみんなこっそり英語でしゃべってますが。

で、その場で全部理解できるかといわれると、全然そんなわけなくて、6割くらいです。7割理解できれば今日の授業はよくできたな、と自分を褒めています。先生から質問されて自分なりに回答したり、ほかの人の回答に質問したりリアクションしたりとできるだけ話すようにしていますが、そう毎回スムーズに答えられるはずもなく、うーん、と考えてしまうこともよくあります。

最初数回はこの「うーん」の時間が苦しく、めちゃくちゃ長い時間に思えて、なんとかして話さないとという焦りが募っていたのですが、よくよく振り返ってみると、「うーん」と考え込んでしまうのには2つのケースがあることがわかりました。

  • 言いたいことがあるけど、どう表現すればよいかわからない
  • そもそも言いたいこと(話の引き出し)がない

この2つです。一つ目は、ようは言葉の問題です。作文や文法等を中心に勉強してきた私たち日本人には「正しい文章を話さなければならない」という義務感がDNAレベルで刷り込まれているので、一つでもわからない単語や語順があれば、発話に時間がかかってしまいます。ただ周りを見回すと、とりあえず見切り発車で話始めて、あとはノリとテンションとジェスチャーでカバーしている人が多いし、よく考えればそうやって英語もブラッシュアップしてきたし、ということで、最近徐々に克服できつつあります。とりあえず、仮に文の冒頭にくる主語さえも思い浮かばなくても、相手の目をみて、あーとかなんか音を出すことが大事(ほんまかいな)。

 

で、問題は二つ目。先生はフランス人、教科書を作った人もフランス人、ほとんどの生徒はヨーロッパ界隈、となると、話題もおのずとフランス寄り、ヨーロッパ寄りになります。会話のトピックに文化的なバックグラウンドの差が如実に現れるのです。

例えば、「あなたは小さい頃の誕生日にどんなことをしましたか?」という質問、みなさんはどう答えますか。私は、覚えている範囲で、プレゼントをもらい、家族4人でケーキを食べたと答えました。シンプルな回答に思えますが、語彙の問題ではなく、これで私にとっての誕生日の記憶は過不足なくカバーできているのです。でも、先生の反応は「え、それだけ?」という様子。そして私の後に答えた人(ヨーロッパ系の方)の回答は、「小学校の頃、朝から両親がパーティの準備をしてくれて、昼にたくさんの友達が家に遊びに来てくれて庭でパーティーをした。風船を飾り付けたりしてたくさん写真を撮り、夜は家族だけで誕生日を祝ってもらった」というもので、まさにこれこそ先生が期待していた回答なのです。

いまでこそインスタ映えを意識して、自宅で派手な誕生日パーティを開く親も多いと思いますが、子供が物心つく頃にはフルタイム共働きというケースも多い日本では、「たくさんの友人を呼んで庭で誕生日パーティー」をしている家はわずかだと思います。しかもそれを子供自身がはっきりと覚えているケースはさらにしぼられるのではないでしょうか。この質問のやりとりで心がざわついた一番の理由は、「あなたの両親はそれだけしかしてくれなかったの?」と受け取られたらどうしようという不安からでした。おそらく語彙がないからこの程度しか話せないくらいに軽く受け止めてもらえていると思うので(笑)、不安になる必要はないのですが、仮にヨーロッパの人から見てしょぼい誕生日でも、私にとっては家族でケーキを食べたり、母親が私の好きな食べ物ばかりを作ってくれたり、こちらの人たちに比べればそもそもの引き出しは少ないけれど、年に一度の楽しい思い出であることに変わりないからです。かといって、日本ではこれが普通ですとも言い切れないし・・・なんかこうそこは文化的な差異がある(もしかすると経済的な差異もある)ので、日本なら絶対聞かないことだよなーと思いました。

また、この前のトピックは「ご近所付き合い」でした。フランス語圏、特にパリは一軒家はほとんどなく、基本がアパートでの生活になります。そのアパートでは住民によるパーティーが年に数回熱心に行われているらしく、場所によっては新しい住民が来るとティーパーティーを開くところもあるとか。結局のところこちらはインフラとか建物の設備が残念なので、宅配ロッカーなんて便利なものもないし、何か配達物が来たら隣人に預かっておいてもらうとか、ご近所付き合いでその辺の不自由をカバーしているのだと思います。で、お決まりの「日本はどうなの?どんなことするの?」という質問。もはやパーティーがある前提。あんまりないということを話すとびっくりしてました。あまりにもドライな国だと思われると困るので、子供がいると親どうし仲良くなるかも、と付け加えておきましたが。

 

とまあこんな感じで、その人の生活や人生に対して一歩踏み込んだ内容、というか、「そんなん聴く?!聴いてどうするん?!」みたいなことを質問されるので、戸惑うことも多いですが、これも経験だなと感じます。こちらの人は会話の広げ方がとても上手で、過度な相槌は打たず(胡散臭いから)、相手の内容に対する質問をすることで「聴いている」という態度を示すのが普通みたいです。納得。日本なら、「こういう踏み込んだ質問はちょっと・・答えられない子もいるかもしれないから」とか言って、教科書的な、日常では使わない例文ばかりが授業で取り上げられることになるわけですが(それはそれでよいのかもしれませんが)、もしかするとその辺も変わっていかないといけないのかもしれません。

脱線してしまいましたが、この二つ目の「うーん」の場合、最近はとりあえず「そんなこと聴かれたことないわ!!!」っていう顔とかリアクションで時間を稼ぐようにしています(笑)いまさら小さい頃の誕生日の思い出は増やせないですし。

 

またあしたからもがんばっていきましょう。